学生の頃、乗るたびにチェーンが外れるという、実に画期的な自転車に乗っていました。いえ、別に好き好んで乗っていたわけではなく、単にボロかっただけなのですが。
現在、盗難車として第二の人生を踏み出した彼(もしくは彼女)は、さんざ跳梁跋扈した挙句、どこぞの川原で朽ち果てているかもしれません。2年前に盗まれたのです。よりによってあんな自転車を盗むなんて・・・なんだかこっちが申し訳ない気分になります。
今ではこうしてYB-1Fourに乗っていますが、あのときの豪放なチェーンの外れっぷりをバイクに置き換えてみるとぞっとします。自転車よりも遥かに早いスピードで走っているときにチェーンが外れたら目も当てられません。下手したら死にます。チェーンの整備はこまめに行いましょう。
そんなわけで今回はチェーンの張りを調整していきましょう。
 まずは19mmのレンチを携え、車体右側後輪部に立ちます。立ちましたら黄色の丸で囲った「リアホイールアクスルナット」にレンチをかけます。
 次に17mmのレンチを携え、車体左側に移動し、1の「リアホイールアクスル」にレンチをかけます。かけましたら、供回りを防ぐために車体右側にかけたレンチが動かないように固定し(誰かに抑えててもらうと楽です)緩めます。かなりきつく締まっているので力を要します。
見事に緩みましたら、次に24mmのレンチに持ち替え、2の「アクスルナット」にレンチをかけ緩めます。ここもかなりきつく締めてあります。気合で緩めましょう。
 無事に緩みましたでしょうか?どうにも緩まない場合は「KURE 5-56」をナット回りに吹き付けるか、これは、あまりお勧めではありませんが、レンチをかけた状態で緩む方向にハンマーで叩いてみたり蹴っ飛ばしたりしてみましょう。ただし、このやり方はネジ部を痛める恐れがありますので最終手段です。どうしてもダメなら私を呼んでください。女の子限定で助けに行ったり行かなかったりします。
見事に緩みましたら、10mmのレンチで「アジャスティングナット」を固定している「ロックナット」を緩め、12mmのレンチで、1の「アジャスティングナット」を締まる方向に回してチェーンを張っていくのですが、ここで私は一つ疑問に思ったことがあります。どうしてこれを締めることでチェーンが張られていくのか。考えてみると、思ったより単純なことでした。以下は私なりの解釈です。間違ってたらごめんなさい。
「チェーン会議煮詰まり中@某バイク製造社第三会議室」 議題 〜失われた張りをいかにして取り戻すか〜
「・・・もうあれですね。いっそのことチェーンを買い換えてもらいましょうか」 「買い換えるってお前・・・一本いくらすると思ってんの?」 「1〜2万程度でしょ?手が届かない金額じゃないですよ」 「ユーザーが黙ってないでしょ」 「じゃあ、それに合わせてチェーンの価格を下げるとか」
「チェーン会社が黙ってないでしょ。総スカンだよ」 「そこは田中さんに頑張ってもらいましょうよ」 「田中さんかぁ・・・最近あの人家買っちゃったからさぁ、あんま冒険できないと思うよ?それにあの人、最近十二指腸やられちゃったみたいよ?正直きついっしょ」 「んー・・・・」 「ふぅー・・・」
「おい、宮下。お前なんかいい案ないの?このままじゃ今日も残業確定だよ?最近、連チャンでカミさんの機嫌悪いんだよね」 「ん〜、そう言われてもねぇ」 「なんだ、お前んとこもか?俺んちもさぁ、上のが来年受験でさぁ、『あんたも少しは協力してよ!』とか女房に言われてさぁ、ほら見ろよ、最近、白髪が目立ってきちゃって」 「お互い苦労しますよねぇ」 「・・・あの、ちょっといいですか?」
「お、久保選手のお出ましだ。最近、調子いいみたいじゃないの?新しいコレ(親指を立てながら)でも出来たか?」 「いえ、あの・・・」 「なんだよお前〜。いいか、女っていうのは男の数で決まるんだぞ?どれだけの男とアレしたかってのが、ゆくゆくは人生に潤いを与えるわけよ?分かるか?」 「はぁ・・・?」 「部長、それセクハラっすよ、セクハラ〜。この間も経理の優子ちゃん、泣かしたばかりじゃないっすか〜」
「おいおいよせよ芝山〜。ありゃあ俺のせいじゃねぇよ。大体があの女は世間を知らなすぎるんだよ。まあ何ていうのかな、俺が今後のためにな、世間の厳しさってやつをビシッとな、仕込んでやったってわけよ」 「そんなこといって、別のモノまで仕込んでんじゃないっすか?」 「おいおいよせよ芝山〜。そんなことしたら女房に殺されちまうよ〜。わははははは」 「あはははははは」
「あの!ちょっと聞いてください!」 「脅かすなよ久保〜。女房が押しかけてきたのかと思ったじゃねぇか」 「あ、すいません。いえ、あの、チェーンのことなんですけど」 「あ?チェーン?・・・あ、ああ、そうだそうだ。チェーンのこと話してんだっけな。ったく、芝山が変なこというから話が逸れちまったんだよ。で?何?チェーンがどうした?」
「いえ、あの、チェーンの張りを戻す方法なんですけど。チェーンっていうのはドライブスプロケットとドリブンスプロケットにかかっているわけですよね?」 「当たりめぇじゃねぇか。そこにかからずにどこにかかるんだよ?ま、優子嬢は俺の手にかかったわけだが」 「うははは、うまい!」 「いえ!ですから!」 「まあそう怒鳴るなよ。わかったよ、冗談だよ。続けてくれ」
「でですね、ドリブンスプロケットっていうのは「リアホイールアクスル」で後輪と一緒に取り付けられているわけですよね?」 「そうだよ?」 「で、ここで少し話が戻りますが、チェーンに限らず弛んだものというのは、単純に引っ張ることで張られます。ですが、ただ手で引っ張ったところでその状態を維持できるわけがありません。手を離せばもとに戻ってしまいます。
けど、逆に言えば、その「手で引っ張った状態」を固定することができればいいわけです。そこで私が考えましたのは「チェーンアジャスター」です。まず、後輪取り付け部に弱冠の余裕を持たせ、前後に動かせるようにします。そして後輪並びにドリブンスプロケットと一緒にリアホイールアクスルに「チェーンアジャスター」を取り付けます。そしてこの「チェーンアジャスター」に「アジャスティングナット」及びそれを固定する「ロックナット」を取り付け、「アジャスティングナット」を締め方向に回すことで後ろに移動するようにします。ナットを締めれば当然、チェーンアジャスターが後方に移動します。すると、それと同じ軸に取り付けてあるドリブンスプロケット、及び後輪も当然、後方に動きます。ということは、それによってチェーンも同時に後方に引っ張られ、チェーンが張るということになるのではないでしょうか?
そしてそこで、「アクスルナット」で固定すれば、チェーンは張られた状態で固定されます。しかしこれだけでは、動かした後輪が傾いたままの状態になる恐れがありますので、さらに、この「チェーンアジャスター」を左右に設け、整備慣れしていないユーザーにも簡単に、後輪を真っ直ぐに調整できるよう目盛りのようなものを付けてみてはいかがでしょうか?」
「・・・・・・え?あ・・・・・・お、おう。い、いいんじゃないの?それ。なぁ、芝山」 「え!?あ、ああ、そっすね。えっと、じゃあ、これでいってみますか?」 「久保さ、今の案を今週中にまとめといてくれよ。俺、とりあえずこれから部長んとこ行くから」 「は、はい!」 「おい久保・・・」 「あ、芝山さん、何でしょう?」 「あのさ・・・・・・俺・・・さっきのお前の話聞いて、なんつーか、その、感動しちまってさ」 「・・・・・・芝山さん」
「なんていったらいいのかな・・・俺も入社当時はお前みたいにギラギラしてたっつーか、燃えてたっつーか、なんていうか、目を覚まさせてもらったような気がすんだよ」 「そ、そんな。私なんてまだ、その」 「まま、いいからいいから。とりあえず言っておきたかっただけからさ。さあて、これから忙しくなるぞ!なぁ、久保!」 「はい!」
って感じではないかと思うのです。この冗長に過ぎる会話のやり取りを一体どれだけの人が読むのか心配になりますが、まあ、これはこれでいいんじゃないかな。久保さんの今後の活躍が期待されます。架空の人物だけど。
さて、とんだ空想話がようやく幕を閉じたところで、2番目の写真で示した1の「アジャスティングナット」を左右ともに締めながらチェーンを張っていきます。適正値は2〜2.5cmだそうですが、ここでは適正値よりも「少し緩いかな?」というところまで張っておけばよいかと思います。
なぜかというと、この後に「リアホイールアクスル」と「アクスルナット」を締めていくとチェーンがさらに張っていくのです。乗車するとさらに張ります。そんなに大幅に変わりませんが、多少の余裕を持っておくといいかと思います。

そしてさらに、このときに「チェーンアジャスター」上部に刻まれた目盛りを左右とも同じ位置に合わせながら行ってください。久保さんが熱弁していたように、この目盛りを左右ともに合わせることで後輪が真っ直ぐになります。左を回したら右を回して、また左を回したら右を回す・・・という感じです。つまり反復横飛びの要領です。ちょっと違うかもしれません。
もしも張りすぎてしまったら「アジャスティングナット」を緩め、後輪を前方に蹴っ飛ばしてください。「あたし、今日ミニだから・・・」なんていう人はハンマーでガンガン叩いてください。そうすることで後輪が前に移動しチェーンが緩みます。そうしたら再びチェーンの張りを調整し直します。
多少の余裕を持たせた状態でチェーンが張れましたら、先ほど緩めたナット類を締めていきます。緩めたときの力加減を思い出し、かなりきつく締めてあげてください。憎ったらしいあんちくしょうの顔を思い出すとより力が入るかもしれません。あれ?なんか私、体が苦しい。まるで何か強い力で締め付けられているみたい・・・・・・
ちなみに、トルク値を示すと、「リアホイールアクスル」が60Nm。「アクスルナット」が80Nmです。かなり強いトルクがかけられています。トルクレンチなんていう便利アイテムを持っている人は計測しておくとよいかもしれません。
十分に締め付けられましたでしょうか?足回りの大事な箇所なので、仮にも、うっかり締め忘れたなんてことのないようにしてください。締め付けましたら後輪が真っ直ぐになっているか、そしてチェーンの張りを確認しましょう。
適度な張りになっていましたら、「アジャスティングナット」を固定するための「ロックナット」を締め、「リアブレーキの調整」をします。後輪の位置が少し動いたのですからブレーキのかかる箇所もずれますのでね。それも終わればチェーンの調整はお終いです。ゆっくりゆっくりのスピードで試運転してみましょう。
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